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はじめに

ITをはじめとした科学技術が、どのような未来を切りひらくか。また、そこではいかに回復力を備えた社会が実現されるのか。このテーマの下、2011年7 月25日、日本科学未来館において、IBMサイエンス・シンポジウムが開催されました。IBM創立100周年記念行事の一環である本シンポジウムは、医療、宇宙開発、交通などの分野におけるエキスパートの方々を講師にお迎えし、回復力のある社会のための科学技術を、考えることをねらいとしました。産官学のリーダー101名にご参加いただいた会場では、まず4名の方々が講演され、2030年の未来にそれぞれの分野での科学技術の未来の可能性を紹介。その後、講演者によるパネル・ディスカッションが行われ、 会場のご参加者も交えた活発な議論が展開されました。当日のご報告、ならびに講演資料を公開いたします。   

シンポジウム セッション報告

【開会挨拶】
災害などに負けない、回復力のある社会づくりに向けた科学技術を探る

写真:森本 典繁 日本アイ・ビー・エム株式会社
東京基礎研究所所長
理事
森本 典繁

最初にシンポジウムのオープニングとして、東京基礎研究所 森本 典繁所長よりごあいさつと、シンポジウムの主旨について紹介がありました。 
「IBM Corporationは、今年の6月で創立100周年を迎えることができました。100年前の1911年、IBMは肉の計量器、肉切り器、チーズ・スライサーなどをビジネスの中心としてスタートしました。その後タイプライターやパンチカード、そして1960年から1980年にかけて、コンピューター・ビジネスを主体とする会社に変化してきました。こうした中で、IBMの根底にあるのは『革新し続ける』ことをビジネス・モデルにしているということです。IBMはお客様のイノベーションを共に実現することを企業の理念として、革新的なソリューションを開発・提供する会社です。今後の100年についても、そうした会社であり続けたいと思っています」と今後のSmarter Planetへの取り組みに対する姿勢について言及しました。

さらに本シンポジウムの主旨として「科学技術の進歩によりさまざまな問題やリスクを抱えている今だからこそ、人々の英知が作り出した科学という道具をどのように使うかということをあらためて考えることが大切なのではないかと考えています。先の大震災において、日本は科学のメリットおよびそのリスクについて、リアリティーをもって体験してきました。この機会に科学技術の観点から、災害などに負けない、回復力や弾力性があり、しなやかな、英語で表現すればレジリエンシーのある社会をつくるためには何が必要であるのかということを考えていきたい」と、シンポジウムの目的を説明させていただきました。


【Space Development in 2030】
低コストで運用可能な超小型人工衛星を活用し、さまざまなニーズに応える

写真:中須賀 真一 氏 東京大学
航空宇宙工学専攻
教授
中須賀 真一 氏



中須賀真一(なかすか しんいち)氏はサイズが小さく低コストの人工衛星の開発に取り組んでこられましたが、本講演においてはこれまでの取り組みと今後の展望について紹介されました。氏の開発した超小型人工衛星は、従来の中・大型衛星よりもはるかに低コスト・短期に開発できるようになることで、さまざまなニーズに応えていくことが可能になります。こうしたニーズについて中須賀氏は、人工衛星による畑の映像を連日撮ることで小麦の収穫日の最適化をはかるなど、応用例についても言及されました。さまざまな実例を紹介しながら、まとめとし 「これからは『モノづくり』から『コトづくり』に変わることが重要です。人工衛星を使ってなにができるのかという『コトづくり』の視点をしっかりと踏まえる必要があります。そのためには『モノづくり』については、安く早く確実にできるという環境を整えることが大切です。

もう1つは相手のニーズを聞いてそれを人工衛星に落とし込む力を養うということです。相手のニーズを踏まえ、『それならば、このような人工衛星がいいのではないですか』と提案できる力が必要なのです。また人材育成の観点からは、『仕掛け屋』『仕切り屋』を育てることが大事だと思っています。技術を作るだけではなくて、その予算を確保し、誰に作らせて、どのロケットを使って打ち上げ、誰が運用して、そのデータをどのように使うのかという全体を企画してプロジェクトを運営していける人材が求められてくるでしょう」と締めくくりました。   


【Society in 2030】
情報技術の進化が高齢化社会のさまざまな課題を解決、正のスパイラルを実現

写真:浅川 智恵子 日本アイ・ビー・エム株式会社
東京基礎研究所
IBMフェロー
浅川 智恵子




次にIBMフェロー 浅川 智恵子より「Society in 2030」と題し、2030年の社会の在り方について、高齢化社会に焦点を当て、ITがいかに高齢者の生活のクオリティー向上に貢献するのかについて紹介しました。 今後20年の話をする前に浅川はまずこれまでの20年について振り返り、これまでの情報技術の著しい進歩により、ITがわたしたちの生活に急激に浸透してきたことを説明。また視覚障がい者にとって、ITの進歩がいかに画期的だったかという点について、自らの体験も踏まえて紹介しました。

「次の20年の最大の社会変化は高齢化です。社会を支える労働人口が減少し、この傾向は日本が一番進むでしょう」と述べました。更にひとりの架空の高齢者Nさんを想定して、電子ペーパー端末によるスケジュール確認、マッチング・サービスによる食事のデリバリー、ネットワークを活用したチュニジアの証券会社へのアドバイス業務の遂行、新興国の事情に精通したインドの高齢者とのオンライン・ミーディング、最新の財務管理知識に関する在宅教育講座の受講などを活用するほか、趣味仲間との会合に出掛けるときは、アンビエント・ナビゲーションも利用するなどといった、夢ではない生活を語りました。

「技術の力で、このような社会、このような社会参加というものを実現できると考えています。2030年にはソーシャル・ネットワークは社会の基盤として、完全にインフラの中に組み込まれているでしょう。 さらにヘルスケアや食事サービス、翻訳サービスなど、将来実現されると予測されるさまざまな技術について言及し、リアリティーのある2030年の社会像を説明しました。「こうした技術が高齢者の社会参加を促します。そして社会参加した高齢者はその刺激により、さらなる意欲がかき立てられ、さらなる社会参加につながっていきます。こうした循環をループではなく、正のスパイラルとすれば、誰もがつながり、生きがいを持ち、学び、社会参加し、そして誰もが能力を発揮できる社会を実現する道につながるのではないかと考えています」と講演を締めくくりました。 


【Healthcare in 2030】
高齢者が元気で経済活動の重要なプレイヤーとなる社会を目指して

写真:紀ノ定 保臣 氏 岐阜大学大学院
医学系研究科/連合創薬医療情報研究科
教授
紀ノ定 保臣 氏



紀ノ定氏はヘルスケアの観点から将来の高齢化社会への対応について取り上げました。「2030年は社会構造の大きな節目になると思います。高齢化社会に突入し、高齢者自身が社会的な経済活動の重要なプレイヤーにならなければいけない。コミュニティーを中心とした、シームレスな健康医療、介護、在宅連携システムというものが確実に作られると予想されますが、同時に予防医学に支えられて、生涯現役を目指す必要が出てきます。こうした社会環境こそが今後日本が海外に向けてシステム輸出をしていくための源泉になると思います。高齢者は次の世代の国際的な水先案内人であるということがわたしの基本的な主張でありますが、それをベースに2030年のヘルスケアについて考えてみたいと思います」と紀ノ定氏は、冒頭において講演の主旨を説明しました。

まずは、今後の年齢別人口構成がどのように変わっていくかについて、資料を元に説明。迫りくる高齢化の現実を提示しました。年齢別人口構成の変化、医療費の水準などについて、海外諸国と比較し、日本の高齢化がいかに進んでいて、将来医療費を賄っていくためには現在のGDPを維持していくことが重要であると説きました。さらに2008年に政府が発表した第5次医療計画という施策を踏まえ、地域医療連携の実現に向けての展望を解説。この地域医療連携については、Googleマップを活用して、地域別の病院、介護施設、老人ホームの分布をしらべ、相互連携の実現性についても分析を試みられました。紀ノ定氏は、地域医療連携実現のために必要な要素は、個々の病院の経営状況について改善していくことが大切だと語ります。

また病院と行政がタイアップして連携の仕組みを作り、その仕組みにより、医療機関、地域、そしてコミュニティーというものを支えていくという、将来夢のある社会にできたらいいなと考えています」と述べました。最後に 「日本の高齢化社会、10年経てば韓国も同様の状況になります。さらに北欧、そして欧州が続きます。これは日本にとって大きなチャンスとなります。生活習慣病の予防、介護予防、重篤化予防、それからICTを活用したコミュニティーベースの保健医療、介護、在宅医療というものをシステムとして作り上げ、なおかつそうしたサービスを適正化することができれば、これをシステムとして海外に輸出することができます。これは日本の利益になるだけではなく、世界から求められていることでもあります」。


【Transportation in 2030】
EVの展望を軸に2030年の日本経済を展望

写真:久村 春芳 氏 日産自動車株式会社
フェロー
久村 春芳 氏




久村氏は最初に、日本経済の歴史を振り返り、自動車を中心とする製造業が日本経済を支えてきた構造を分析。1990年以降はGDPにおける製造業シェアが低下する一方、サービス業が伸びている変化を示しました。東日本大震災を契機として浮上したエネルギー問題が製造業にも大きく影響を与える産業構造を説明し、これまで依存してきた化石燃料の限界、原油をエネルギー源として車が走る時代からの転換の予想を述べ、日本のエネルギー自給率の低さがリスクとなる旨を指摘。ドイツにおける脱原発の取り組み、日本が取り組む自然エネルギー対策を紹介した上で、風力発電、太陽光発電、水力発電、地熱発電それぞれの問題点を指摘し、エネルギー・シフトが容易ではない状況を説明しました。その上で、「バッテリーが問題解決の1つの解になるのではないか」と提案。EVを含めた新しいシステムづくりを紹介し、魚群が集団で高速移動しながらも互いにぶつからない動きを交通流へ応用する研究を紹介しました。

将来のスマート・コミュニティへの統合アプローチとしては、「クリーン・エネルギー供給、EV・EVバッテリーの活用、交通システムの最適化」という三つの柱を提示。将来的には、スマートハウス、エネルギー・スマート(スマートグリッドの概念)、モビリティ・スマートによって、コミュニティ・スマートが実現されるのが理想であり、その中ではEV、EVバッテリーも重要な役割を果たすことができると説明。さらに、EVを含むコミュニティ・スマートの実現によって日本経済が活性化されることを期待したいと結びました。


【Panel Discussion】
回復力を備えた社会の実現のために

    写真:パネルリスト1 写真:パネルリスト2

[モデレーター]森本 典繁 [講演者] 紀ノ定 保臣 氏、久村 春芳 氏、浅川 智恵子

最後のプログラムとして、講演者によるパネル・ディスカッションが行われました。中須賀氏をのぞく3名の講演者により、活発な議論が展開されました。モデレーターの森本所長から問題提起がありました。 「IBMではSmarter Planetの取り組みを展開してきましたが、その中で分かったことは、機能的に社会のインフラを改善することのほかに、いかにリスクを回避することを考えることが重要であるということです。リスクの中でも特に自然災害に対するリスクを重点的に考えなければいけないということに思い至りました。

その自然災害を重視する理由は、予測が難しいということ、対応を万全にしようとすると莫大なコストが掛かるということです。従ってどこまでの対策を行えばいいのかという判断が困難になってきます。実際に近年発生した自然災害はその規模も被害額も増大しています。そこでそうした自然災害に対して回復力を備えた社会を実現するために、科学技術が果たすべき役割はどういうものであるのか。そしてどのように役割を果たし得るのか。そのためには何が必要なのか。さらに今後具体的にどのような技術が実現されていくのかについて議論したいと思います」と語りました。

3名の講演者とともに、コミュニティーの果たすべき役割、インターネットからの情報収集、技術開発のための人材育成、開発の動機付け、情報活用の目的意識共有の必要性など、さまざまな角度から議論が展開されました。議論には壇上だけではなく、会場の方々も参加され全体で有意義な意見が交わされ、シンポジウムは成功裏に幕を下ろしました。

シンポジウム併催展示企画「IBM 100年の科学技術のあゆみ」

    写真:展示会場風景 

また本シンポジウム開催日を含む25日、26日の両日、科学未来館1Fで「IBM100年の科学技術のあゆみ、コンピューターの進化 ~科学でできること~」と題した技術展示や、科学実験教室、研究者・エンジニアによるトークセッションをおこないました。展示ブースでは「質問応答システム Watson」をはじめアポロにのったプロセッサーやディスク・テクノロジーなどを展示、IBM研究開発100年の一端を研究者・エンジニアがお伝えしました。総来場者は2日間にわたり延べ約2000名、幅広い年齢層の皆さまにご来場いただき、IBMの人と技術に触れながら、未来の社会を思い描いていただきました。

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企業が危機に負けない「強さ」を手に入れるために、IBMはソリューションで支えていきます


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